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郷愁

薩摩半島の最南端に、開聞岳という山がある。標高922メートル。薩摩富士ともよばれるこの美しい円錐形の山は、裾野を太平洋に洗われ、ふかい緑におおわれた山頂から麓まで一直線の傾斜をみせた端正な山である。開聞岳の名は、鹿児島湾の入り口にあるところから「海門」となり、それが転じたのだという。
40年まえ、本土最南端、陸軍最後の特攻機地知覧を出撃した特攻機の編隊は、この開聞岳上空を西南に向かって飛び去っていった。
本土ともこれでお別れになる。隊員たちは、日本最後の陸地である開聞岳の姿を心の底に灼きつけるように、何度も振り返り振り返り凝視めていた。なかには、万感の念いで祖国への訣別の挙手の礼をこの山にむかって捧げている少年兵もいたという。
開聞岳上空から沖縄まで650キロ。海上2時間余の飛行。この山に別れを告げ、還らざる壮途についた特攻隊員462人。出撃機数431機。開聞岳は美しくもかなしい山である。


                           神坂次郎著 「今日われ生きてあり」の最初のページより


1ヶ月前ここを旅したときに、一番見たかったところでもある開聞岳。この本の序章を読んで、ようやく得心がいった。

この山は飛び立っていくものたちにとって、愛する祖国の象徴だったのかもしれない。


DSCF2932.jpg



この本に出てくる特攻隊員のエピソードの中に、私の住む町出身の将兵がいたことを知った。

「岐阜県加茂郡上米田村」、現在は川辺町に編入。奇しくもこの「川辺」(かわべ)という地名も、知覧の隣町に同名の町(こちらはかわなべ)がある。

そういえば以前日記にも書いた同町在住の元特攻隊員だったご老人の話によれば、叔父が陸軍特攻で散華されたのが縁で今も毎年知覧に慰霊に訪れる方が町内にいらっしゃるという。

きっと、その方のご遺族なのだろう。



わが町に住むものにとって、シンボルともいうべき山がある。

その名は「米田富士」。飛騨川のダム湖にたたずむ稜線の美しい里山だ。

最近になって何気なくこの山を見たとき、ハッとした。

シルエットが開聞岳と同じだったからだ。

DSCF2992.jpg


高度を上げていく操縦席の中で、この本に出てくる同郷の特攻隊員は、開聞岳に自分のふるさとを見ていたにちがいない。


一ヶ月前に開聞岳を遠望したとき、ふと沸きあがった郷愁のような切なさは、あのころの若者が70年の時を超えて垣間見せてくれた記憶の断片だったろうか。



美しくもかなしい山… 文中の一節が、いつまでも頭の隅に残る。




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わが家のワンコを溺愛する「わんこおやじ」。
本業(写真店)のかたわらワンコ用スイーツも作っています。

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