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ラムのいない日々

朝、店の駐車場に車を入れる。

まず目がいくのは、ラムのいる場所だ。

感情の乏しくなった黒い二つの目が、じっと私を見つめる。

ああ、今日も無事でいてくれた。

おはよう、ラムさん。

そんな安堵から始まっていた私の一日。

そうやって残り少なくなった時間を積み重ねてきたのだけれど…




この一年、「そのとき」が来ることを、考えない日はなかった。


キャッチャーがミットを構えるように、「そのとき」を受け入れる心の準備だけはしておいたつもりだった。


でも、その日はやっぱり唐突にやってきた。




いつもなら小屋の中で寝ているはずのラムが、こんなに寒い朝なのにコンクリートの上にうずくまり、顔だけ私のほうを見ている。

異変が起きていた。

四肢に力がまったく入らず、下半身がウンチにまみれながらも、じっと私を待っていたのだ。


抱き起こしてみると、寒いはずだろうに、震えが伝わってこない。おまえ、いつからこうしていたんだ?

急いで苦しがるラムを店に運びいれ、暖房をがんがんに炊きながら体の汚れを拭いてやる。

ごめんよごめんよ。

知らせを聞いた女房も飛んできて、ふたりで介抱する。



ときおりなにかを訴えるように「アウッ アウッ」と力のない叫び声をあげる。お腹が痛いのか。それとも垂れ流しのお尻が気になるのだろうか。

注射器で水や砂糖水を口に流し込んでやるが、飲み込む力もあまり残っていない。舌が白くなり、心なしか肉球もひんやりしてきた。


成人の前撮りの撮影を終え、お客さんを見送ってから戻ってみると、呼吸が今までよりも浅くなってきた。

そしてあぶくを吐くようになった。あぶくには腹水と同じ、ほんのりと血の色が混じっていて、枕にしているタオルが桜色に染まっていく。

もういいよ。ラムさんよくがんばったよ。もうじゅうぶんだよ。

そうつぶやきながら二人して体をさする。

いっしょうけんめい。それしかできないもどかしさに抗いながら。



火曜日にも体調が急変し、急きょ7回目となる腹水を抜いてもらったばかりなのに、もうラムのお腹はまん丸だ。

そんなお腹をとうとう支えきれなくなったガリガリの手足。

それでも最後の最後まで、ラムは生きることをあきらめなかった。

その小さな灯りが、いま消えようとしている。

もういいよ。もういいんだよ。



やがて、ラムの鼓動を感じ取っていた私の手のひらに、伝わるものがなくなった。

女房と目を合わせる。

動かなくなったラムが、そのあと2度、ねだるように口をあけて息を吸おうとした。




ラムの目は、いつまでも閉じようとしなかった。


ram last day



次の日の朝、ラムの亡骸を家の庭に埋めた。

ラムの看取りを陰で支えてくれた長女が言った。

「ここに木を植えようよ」

なんの木が、いいだろう。





店に行く。

でもラムは、もういない。




その日、洗濯物は山ほどあった。

店のすべてのタオル類を使い切ったからだ。


洗濯物を干し、片付け仕事をしているうちはいい。

することがなくなると、視界の片隅でラムの姿を探している自分に気づく。




店の中にBGMを流す気にもならず、かろうじて聞き取れない程度にラジオの音を流して、わずかなノイズの中に自分を浸し、ボ~ッとしている。

翌日も、その次の日も。


そして4日目、心積もりはしていたはずなのに、軽いペットロス症候群からまだ抜け出せないでいる。



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合掌

ラムさん旅立ちましたか・・・合掌

ここ1週間ほどお邪魔できないうちに・・・おさびしいですが「ゆうき」くんがいるし!

うちの長男猫も先月旅立ちました。18年一緒に過ごしましたが妹猫を含めまだ5猫がいますので、てんやわんやの毎日です。
smileさんの文章立てはぐっときますが、凄い思い入れがおありなのが伝わってまいります。

ありがとうラムさん

smileさんおはようございます。昨日は裏の小屋を見るだけで涙が止まりませんでした、私の飼い犬が亡くなってすぐラムさんと出会い、私を友達と認めてくれて、ごはんも食べてくれて、いつもシッポを振ってあまえてくれました。
smileさんも最後までよく看病されましたね、ラムさんもきっと喜んでいると思います。もうこれ以上書けません、またお店に行きますね。

No title

しばらくどこのHPにも行かずに
今日昼休み一番初めにここに来て
知った訃報・・
言葉がありませんが
ラムさんは満足して旅立たれたと思います
プロフィール

smile

Author:smile
わが家のワンコを溺愛する「わんこおやじ」。
本業(写真店)のかたわらワンコ用スイーツも作っています。

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